サド・ゴヤ・モーツァルト

ギィ・スカルペッタ著(Guy Scarpetta)

高橋啓訳/早川書房/91年8月


 序文の「三人とも程度の差こそあれ、旧体制の犠牲者であり、封建主義に、絶対王政に従属するものだった。それは、彼らの制作活動そのものに含まれる至上性の要求と対立せざるを得なかった。しかしまた、彼らは旧体制の価値観に愛着を示していたことも事実である。たとえばバロックの価値観(ゴヤ)、たとえば無神論的で奔放な自由思想の価値観(サド、モーツァルト)である。これらの価値観は、まさしくフランス革命によって美徳の名のもとにたちまち弾劾され、葬り去られる運命にあった」という作者自身の言葉で、なぜこの三人が同列に論じられたのかがわかる。また文学、絵画、音楽とジャンルの異なる芸術家を選んでいるのも一興。
 サドの章では扉に「いつもサドのもとに帰らなければならない。悪について語るためには、自然の男が必要なのだ」というボードレールの言葉を引用している。
 サドは1789年7月14日当時は、シャラントンの狂人収容所に幽閉され、悶々とした毎日を送っていた。小部屋の窓から聞こえる狂人の叫び声に耳をふさぎながら、モントルイユ夫人、ローズ・ケラー、看守ローネーなど仇敵について、回想するサドの姿が描かれている。さすがに作者は脚本家だけあって、行間からサドの「畜生、畜生」という声が聞こえてきそうな臨場感にとんだ描写の小説である。

情報提供:中村よしこ


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