マルキ・ド・サド−その生涯と思想

(原題:The Life and Ideas of the MARUQUIS DE SADE)

著者:ジェフリー・ゴーラ(Geoffrey Gorer)

出版:1966年/荒地出版社/大竹勝訳/原著は1953年 Peter Owen Ltd.より出版


筆者であるゴーラは、彼の述べるところによると「ドイツでナチ運動がひろ く指示され、一般投票によって勢力を占めた事実について、心理的な理由を発見し よう」(「第二版への序文」より)という試みのもとに、サドに注目した。つまり 、ナチス運動の比較としてサドの作品に注目し始めたのである。現に彼は、最初は そちらの側面からの執筆を試み、1932年には「The Life and Ideas of the MARUQUIS DE SADE 第一版」として発表されている。だが、現在我々の目前にあるのは、ナチス との関連部分をほとんど削除した、第二版である。
第二版でも、依然としてゴーラは、政治思想とサドとの関連に焦点を当てている。 ただ第二版で注目された政治思想は、その当時の「Up to date」な人々ではなく、 ルソーであった。彼は、サドを「革命の産物」であり、「ジャン・ジャック・ルソ ーの裏返し」として描いている。ここで「裏返し」の内容を簡単に述べるならば、 ルソーの「自然に帰れ」という名文句が、極めて前向きであり、楽観的(性善説的 )な宣言であるのに対し、サドは、人間がいかに破戒好きなモノであるかという、 絶望的な(性悪説的)悲観論であるということだ。
個人的には、第一版のナチズムとの比較・関連性に着いての論考が読みたい気はす るが、どうもこの著作全体の雰囲気からすると、「どうしても読みたい!」というほ どの魅力を感じるわけではないことを、正直に告白しよう。訳文のせいかも知れな いが(失敬!)全体的に生真面目すぎる気がしてならないのである。サドの思想は確 かに真面目なものだが、読み解く側がしゃちほこばっているばかりでも、つまらな いものである。サドとて曲がりなりにもフランス人なのだ。フランス特有のエスプ リを忘れるわけににもいくまいと思うのだが、さていかがなものか。
ちなみにゴーラは、イギリス人の人類学者で、M・ミード女史とも親しかったそう である。

(情報提供:Aya)


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