「ガンジュ侯爵夫人」

la Marquise de Gange

橋本到訳/水声社版サド全集第十巻/完訳


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 当時、フランスで世をにぎわせた実際の事件を題材に晩年のサドがシェラントン精神病院で執筆した、事実上彼の遺作。サド作品のなかでは「アリーヌとヴァルクール」と同じ、極端で陰惨な描写の比較的少ない正当派文学に位置づけられる作品だが、同時に主人公の幽閉され最後には惨殺される悲惨な運命や、宿敵テオドールの謎めいた最期など、暗黒文学の香りも持ち合わせている。精練された文章には美徳への愛護、悪徳への非難が大半を支配しているが、これは「ジュスティーヌ」等の文学によって余生を棒にふってしまった自己の運命に対する強迫的な自己防衛作用が見て取れると考えられる。しかし、サドは美徳を語るときも、悪徳を語るときも、同じ自然の法則に基づいて論じているというポイントに気を付けて読まねばならない。

(ザッピー浅野)



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